手足のほてり
手のひらや足の裏が熱く感じる症状のことを、東洋医学では「手足煩熱」といい、陰虚を考える代表的なサインの一つです。
陰には身体を潤し、余分な熱を冷ます働きがあります。陰が十分にあると体内の熱は適切に調整されますが、陰が不足すると熱を抑えられなくなり、「虚熱」と呼ばれる熱感が現れます。その結果、手のひらや足の裏が熱く感じたり、夜になると足を布団から出したくなったりすることがあります。
手足煩熱は、寝汗、のぼせ、口や喉の乾燥、不眠、多夢、腰や膝のだるさなどを伴うことが多く、舌は紅く苔が少ない、脈は細くやや速いといった所見がみられることがあります。
また、日中は陽気が盛んに活動し、夜になると陽気は陰に入り、身体は休息・修復・滋養の時間に入ります。この時間に十分な睡眠がとれることで、日中に消耗した陰液や血が補われます。
しかし、不眠が続くと、身体は十分に休息・修復できず、陰液を回復する時間が不足します。その結果、陰が少しずつ消耗し、陰虚へ傾いていきます。陰虚が進むと身体を冷ます力が弱くなるため、さらに手足煩熱や寝汗、のぼせなどの症状が現れやすくなり、不眠も悪化するという悪循環に陥ることがあります。
さらに、夏は暑さや発汗によって身体の潤い(津液)が失われやすいため、もともと陰液が不足しやすい人は陰虚の症状が現れやすくなります。
ただし、夏にみられる不調がすべて陰虚とは限りません。湿気や熱がこもることで起こる湿熱、胃腸の弱りによる脾虚、冷房や冷たい飲食による寒邪など、ほかの原因でも似た症状が出ることがあります。
扶正祛邪
扶正祛邪(ふせいきょじゃ)
これは簡単に言うと、
体の回復する力を高め、不調の原因を取り除く力を高めること。
例えば、風邪をひいたときでも、疲れ切って体力が落ちている人に強い治療ばかりをすると、かえって体が消耗してしまうことがあります。
また、肩こりや腰痛、しびれ、便秘などの慢性的な症状でも、体の中に「滞り」があるからといって、それを無理に動かそうとしても、もともとの体力や回復力が不足していると十分な効果が出ないことがあります。
そこでまず大切なのが、体の回復力を高めることです。
この回復力を「正気(せいき)」と呼びます。
正気が充実すると、
東洋医学には「正気存内、邪不可干(正気が体内にしっかりあれば、邪気は侵すことができない)」という考えがあります。
正気が満ちてくると、体は自分自身でバランスを整え、自然治癒力が十分に働くようになるため、症状が改善するだけでなく、再発しにくい体質へと変わっていきます。
もちろん、すべての人がこのように治療するというわけではありません。
炎症が強い場合や熱がこもっている場合などは、先にその原因を取り除く治療が必要なこともあります。
大切なのは、その日の体の状態をしっかり診て、今は回復力を高めることが先なのか、それとも原因を取り除くことが先なのか、
を見極めることが大切です。
今日の患者さんからの学び
脾と腎に弱りがある患者さんでしたが、弱りがあるからといって、すぐに補えば良いわけではありません。
腹診で下焦に湿や瘀血(畜血)が停滞し、脈や舌からも邪気が強く滞っている状態が確認できる場合は、まずその邪を取り除くことが優先になります。
このような状態で先に腎を補うと、邪気を抱え込んでしまい、かえって症状が悪化することがあります。
まずは湿や瘀血を動かして気血の巡りを整え、その上で不足している腎気や脾気を補うことが大切です。
治療は「何を補うか」だけでなく、「どの順番で行うか」が重要です。邪実を見落として補法を行うと、治療効果が得られないばかりか、症状を悪化させることもあるため注意が必要です。
加えて、穴の選択する際にも、何が不足しているのか、どの穴の性質が今の病態に合うのかを見極めることが大切です。適切な穴を適切な順番で用いることで身体の巡りが整い、本来の回復力が発揮されていきます。
邪の特性
邪気の特性を知ることで症状の見方がぐっと分かりやすくなります。
湿邪(水湿)は、水のように重く下へ沈む性質があります。そのため、足のむくみや下半身の重だるさ、下焦の不調として現れやすくなります。「身体に鉛が入ったように重い」「朝起きてもスッキリしない」といった感覚は湿邪の特徴です。
熱邪は火のように上へ昇る性質があります。そのため、肩こり、首こり、頭痛、目の充血、のぼせなど、上半身に症状が出やすくなります。ただし、熱症状が頭や顔に出ていても、その原因は胃腸の不調や下半身の冷えなど、中焦や下焦に隠れていることも少なくありません。
風邪は風のように軽く、あちこち動き回る性質があります。そのため、「昨日は肩が痛かったのに今日は腰」「右が良くなったら今度は左」といったように、症状や痛みの場所が変わりやすいのが特徴です。
寒邪は冷やして固める性質があります。そのため、気血の流れが悪くなり、同じ場所に痛みが続く固定痛が現れやすくなります。冷えると悪化し、温めると楽になるのが大きな特徴です。
燥邪は身体の潤いを奪う性質があります。皮膚や粘膜が乾燥しやすくなり、筋肉や関節も潤いを失うため、「重い」というより「突っ張る」「動きが滑らかでない」といった症状として現れます。
まとめると、
湿邪は「重く沈む」
熱邪は「上へ昇る」
風邪は「動き回る」
寒邪は「固める」
燥邪は「乾かす」
とゆう特性を持っています。
頭痛や肩こりがあるから原因も頭や肩にあるとは限りません。実際には胃腸に湿熱が溜まっていたり、下半身の冷えや気滞が原因で熱が上にのぼっていることもあります。
症状が出ている場所だけでなく、その邪気がどんな性質を持っていて、どの臓腑に影響しているのかを考えることで、より深く病態を理解できるようになります。
少陽枢機不利
少陽枢機不利とは、少陽(胆・三焦)が担う「気機の昇降出入を調節する働き(枢機作用)」が失調した状態を指します。少陽は身体の内外をつなぐ蝶番のような役割を持っており、この働きが滞ると気の流れが悪くなります。
はじめは気滞として現れ、胸脇苦満、脇腹の張り、喉の違和感、口苦、耳鳴り、耳閉感、めまい、イライラ、寒熱往来などの症状がみられます。
気の流れが滞ると、津液(体液)の運行も障害されます。中医学では「気行けば水行く」と考えるため、気が滞れば水も滞ります。その結果、体内に湿が停滞し、むくみや頭重感、身体の重だるさなどが現れます。さらに湿が長期間停滞すると濃縮されて痰となり、痰湿の状態へ進展します。耳鳴りや耳閉感、めまいなどの耳症状は、少陽経と耳との関連に加え、痰湿が上焦に停滞することで生じやすくなります。
また、気の停滞が続くと血の巡りにも影響します。中医学では「気は血を行らせる」と考えるため、気滞が長引くと血流も滞り、瘀血が形成されます。瘀血になると慢性的な肩こりや頭痛、固定性の痛み、舌下静脈怒張、顔色のくすみ、月経痛や月経不順などがみられるようになります。
逆子について
逆子の治療穴としては、古くから足の小指にある「至陰」が広く知られています。確かに、当時の生活環境や体質傾向においては高い効果がみられたのかもしれません。
しかし、現代では生活習慣や身体環境、体質そのものが大きく変化しており、至陰への施術だけでは十分な変化が得られないケースも少なくありません。そのため、「逆子には至陰」という一つの考え方にとらわれず、患者さん一人ひとりのお身体の状態を丁寧に診察し、その方に合った治療穴を選択していくことが大切だと考えています。
例えば、妊娠中に風邪をひいたことをきっかけに、身体に入り込んだ邪気が下方へ沈み、十分に抜け切らないまま残ってしまう場合があります。そのような状態では、胎児が邪気のある方向へ頭を向け続けることを避けるように、頭を上へ向けた姿勢になり、逆子となることがあります。
また、もともと瘀血が下部に停滞している場合にも、気血の流れが滞り、逆子につながることがあります。
このように、邪気が沈んでいたり、瘀血が停滞していたりすると、身体全体の巡りが悪くなり、特に横隔膜周辺に硬さや緊張が現れやすくなります。すると、お腹の中で胎児が十分に動ける空間が狭くなり、自由に回転できなくなってしまいます。
まずは身体の滞りを取り除き、気血の巡りを整えながら、胎児が自然に動ける空間をつくっていくことが大切だと考えます。
舌が教えてくれること
舌診の本には舌の裏側のことや、舌下静脈のことなどが書かれていることがあまりないので、臨床で学ぶことがほとんどです。
今回は臨床で学んだ舌のことについて書いていきます。
瘀血の反応には暗紅舌や舌下静脈の怒張がある。
しかし、暗紅舌がみられても舌下静脈の怒張がなかったり、舌色が褪せているのに、舌裏は赤く、舌下静脈の怒張があるなど表裏で異なる反応が現れる場合は、正気の著しい低下が考えられる。
家族歴に消化器疾患や喘息などがみられる場合は、体質的に正気が弱い傾向をもともと有している可能性がある。
こういった場合は臓腑をたてることを優先する。
瘀斑は強い気逆の証であり、舌先にみられても必ずしも肺や心の病変を示すとは限らない。脾腎の弱りによる気滞や瘀血が原因となる場合もあるため、部位だけで病変を断定せず、総合的な判断材料の一つとして捉えることが重要である。
妊婦さん
妊娠すると陰血は胎児を養うために使われるため妊婦の体は陰血が虚し、陽気偏亢という生理状態になる。
のぼせや眩暈、頭痛などの症状がでてくることがある。
胎児が大きくなると、気機を閉塞して昇降機能が失調する。
息切れ、動悸、不整脈が出てくることがある。
胎児を育むのに自分の精気が負けると不正出血が起きることがある。
安胎法は補腎培脾を主とする。
補腎は個胎を行う。
培脾は血の源を益し、血が充実することにより胎児は安定する。
食滞
食べ過ぎによって未消化物が中焦に滞り、身体は一生懸命に消化しようと熱化し、その熱は上焦に影響を及ぼします。
心に影響を及ぼすと動悸、息切れ、精神不安、不眠などの症状が出ます。
肺に影響を及ぼすと咳、痰、咽頭痛、などの症状が現れます。
その他にも、めまい、頭痛、耳鳴り、目赤、肩、首の痛みなどの症状が現れる場合もあります。
腹八分目にしておくことは、健やかな身体を保つのに、とても大事なことです。








