陰陽應象大論篇第五

善診者、察色按脉、先別陰陽、 審清濁、而知部分。
視喘息、聽音聽聲、而知所苦。
權衡規矩、而知病所主。
按尺寸、觀浮沈滑濇、而知病所生。
以治無過、以診則不失矣。

善く診る者は、色を察し脉を按じて、先ず陰陽を別ち、清濁を審らかにして、部分を知る。
喘息を視、音声を聴きて苦しむ所を知る。
權・衡・規・矩を観て、病の主たる所を知る。
尺寸を按じ、浮・沈・滑・濇を観て、病の生ずる所を知る。
以て治すれば過ちなく、以て診すれば則ち失せざらん。

權衡規矩
→馬蒔の説「春は規に応じるとは、陽気の柔軟なのが、丸い規のようであることをいう。
夏は矩に応じるとは、陽気の強く盛んなのが、方形の矩のようであることをいう。
秋は衡に対応するとは、陰が昇り陽が降り、高下が必ず平となることをいう。
冬は權に応じるとは、陽気が下にあるのが、重い權のようであることをいう。』

權(ケン、ゴン)

(01) 木の名
(02) おもり。ふんどう。
(03) はかり。てんびん。
(04) はかりにかけて重量を知る。
(05) たいらにする。ならす。
(06) たいら。
(07) いきおい。
(08) はたらき。能力。

衡(コウ)

(01) よこ。よこたわる。
(02) 牛のつのぎ。牛の両角に横に結んで人に抵触するのを防ぐ木。
(03) くびき。轅の端に設けて牛馬の頸につける木。
(04) こうがい。
(05) よこぎ。はり・けた。
(06) てすり。
(07) はかり。はかりざお。
(08) はかる。
(09) たいら。ひとしい。
(10) ただしい。
(11) ひしゃくの柄のかしら。

☆權衡(ケンコウ)

(01) はかりの重りと竿。転じて、物事の釣り合いをいう。
(02) 事物を品評する標準。比較。
(03) 二星の名。軒轅と太微。

規(キ)

(01) ぶんまわし。円を畫く道具。
(02) まる。円形。
(03) まるい。まどか。
(04) そら。あめ。
(05) まるをかく。えがく。
(06) うつす。模写する。
(07) のっとる。
(08) かぎる。くぎる。
(09) たもつ。領有する。
(10) はかる。
(11) ただす。
(12) いさめる。
(13) のり。おきて。さだめ。
(14) ようす。風釆。儀容。
(15) てほん。儀範。

矩(ク)

(01) さしがね。四角形を正しく畫くのに用いるもの。
(02) 四角形。
(03) かど。
(04) のり。きまり。おきて。
(05) 地。(天圓地方の説:天は円くて、地は方形)
(06) さし。長さをはかる器。
(07) きざむ。しるしをする。
(08) 秋。
(09) 幅と長さ。たてよこ。
(10) 萬に通ず。

☆規矩(きく)

(01) ぶんまわしとさしがね。転じて、規則。てほん。常道。
(02) 戎(遊牧民族)の名。
(03) 高さが略々一様で綠色の毛氈を敷いたように生える草。


馬蒔のいわゆる”四季に応じる”とする説(規→春、矩→夏、衡→秋、權→冬)。
理解になじめず、一言ずつ調べてみました。
この”權衡規矩”ですが、馬蒔は四季との対応させる事を表現に用いておりますが、
計量や法則の意味と捉えられる単語を、四季に相応させる不思議を感じます。

四つの単語の權・衡・規・矩ですが、
実は權衡・規矩のような二字熟語の組み合わせで表現してみては、、
との仮説を考えてみます。
陰・陽も”陰陽”、清・濁も”清濁”で通りますので、
浮・沈・滑・濇も”浮沈”と”滑濇”にて。

『陰陽を別ち、清濁を審らかにして、喘息を視、音声を聴き、
權衡や規矩、浮沈や滑濇を観て、病の生ずる所を知る。』

より探求が進んで、洗練された答えにたどり着く事を夢見て、
内經を読みといていきたいと思います。


【参考文献】
『現代語訳 黄帝内経素問 上巻』東洋学術出版社
『黄帝内經』中医戸籍出版社
『大漢和辞典』大修館書店
(權:六巻605頁、衡:十巻165頁、規:十巻322頁、矩:八巻288頁)
『新版 東洋医学概論』医道の日本社

3 コメント

  1. 『素問』脈要精微論篇(17)より関連するところを抜粋します。

    「請言其與天運轉大也。
    萬物之外、六合之内、天地之變、陰陽之應。
    彼春之暖、爲夏之暑、彼秋之忿、爲冬之怒。
    四變之動、脉與之上下。
    以春應中規、夏應中矩、秋應中衡、冬應中權。」

    とあり、この一番最後の文章が
    今回の記事の内容と対応しているようです。

    ここの意味について、
    『鍼灸医学大系』による通解は以下のようになり参考になります。

    「人間というものは天地宇宙の間にあって、
    天地四時の運行に相適応してその生命現象を保っていくものであります。
    この偉大なる宇宙自然界の遂漸的な推移変化というものは
    春の暖は発展して夏の暑となり、秋の涼は発展してやがて冬の寒となるのです。
    これら四時における外界の変動というものは直ちに人間の生体に及ぼし、
    これによって脈の現れ方にも影響して上下するものであります。
    今外界の変化が人体に及ぼす作用、これに対する生体の反応を見るに、
    春の応は円を描くコンパスのごとく滑らかに動く脈状を現出し、
    夏の応は矩のごとく方正にして盛んなる脈状を呈し、
    秋の応は衡のごとく平で浮毛、軽渋にして散ずるような脈状を表し、
    冬の応は石のごとく沈んで滑なるところから権の下垂にたとえることができましょう。」

    主な字句の意味としては、少し略したりしてまとめてますが、
    以下のように書かれています。
     規:円を描くコンパスのこと。コンパスのように滑らかに動くことを表す。
     矩:「規矩」の矩の字で、その原字は巨。直角の定規の形。あたかも矩のごとく方正で盛んであることを表す。
     衡:牛の角に横さまにつけた直線状の固い棒のこと。まっすぐな横木をいい、平らなことを表す。
     權:ハカリに下げるふんどうのこと。重くて沈むことを表す。

  2. ・・・ですが、
    ここでの「權・衡・規・矩」は脈診について書かれているとは限らず、
    『素問』脈要精微論篇(17)との関連は定かではありません。

    稲垣さんのように、
    その漢字の意味を一から調べて考察してみると、
    「權・衡」→ 重さ → その人の体重
    「規・矩」→ 円・四角 → 形 → その人の体格とか骨格
    と読めるとも思いますね。

    • 大原先生、コメント有難うございます。

      例えば、『上・下・左・右』とするよりも
      『上下』とした方が”Y軸”、『左右』とした方が”X軸”の表現に近い気がするな・・
      など、考えてこの部分を読んでおりました。

      様々な可能性や先生方より頂いた新たな情報を次に生かしたいと思います。
      頂いた知識を大事に活用させて頂きます!

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