肺、金、従革、皮毛、鬼
『五行大義』
金曰従革。従革者革更也。範而更。形革成器也。
西方物既成殺気之盛。
金に従革と曰ふ。従革とは、革は更なり。範に従いて更まる。形革まりて器を成すなり。
西方の物、既に成りて、殺気の盛んなるなり。
『京都薬用植物園の麻黄』より、解表薬から肺系へと探求をしております。
『肺』
五行においては金。
五体としては皮毛。
五性としては従革。
皮毛は”外からのシールド”とだけに、囚われていたように思います。
肺の宣発作用に注目して、粛降作用を見逃していたようにも思え、臓腑の作用を再確認しなくてはと気づかせて頂きました。
また、『五行大義』より
”(皮毛という)大きな袋があるから(臓腑という)中身を沢山詰め込める”
という”器”の機能もあるのだと教えられたように思います。
肺經の經穴では別名に気になるところがあり、繋がりを求めたいと思います。
『手の太陰肺經』
井木穴 ”小商” 別名:鬼信
原穴 ”太淵” 別名:鬼心
合水穴 ”尺沢” 別名:鬼受、鬼堂
(別名の”鬼”が気になって調べていますが、根拠には辿り着かずに探求を継続中。)
『大漢和辞典』
【鬼】
、、人が死ねば心思をつかさどる魂は天にのぼって神となり、形體は地に歸り、形體の主宰である魄は鬼となる。
[説文]鬼、人所歸爲鬼、从儿、田象鬼頭从厶、鬼陰⽓賊害、故从厶。
陰気と肺、金、従革、皮毛、鬼について共通項を見出せそうで、未だ掴めておりませんが、
今後も探求を深めていきたいと思います。
【参考文献】
『五行大義』明徳出版社
『大漢和辞典』大修館書店
『臨床経穴学』東洋学術出版社
『新版 経絡経穴概論』医道の日本社
y=sinθ(1)
素問 六微旨大論篇 第六十八
帝曰.
遲速往復.風所由生.而化而變.故因盛衰之變耳.
成敗倚伏.遊乎中.何也.
岐伯曰.成敗倚伏.生乎動.動而不已.則變作矣.
帝曰.有期乎.
岐伯曰.不生不化.靜之期也.
帝曰.不生化乎.
岐伯曰.
出入廢.則神機化滅.升降息.則氣立孤危.故非出入.則無以生長壯老已.
非升降.則無以生長化收藏.
是以升降出入.無器不有.
故器者生化之宇.器散則分之生化息矣.
故無不出入.無不升降.化有小大.期有近遠.四者之有.而貴常守.反常則災害至矣.
故曰.無形無患.
此之謂也.
帝曰善.有不生不化乎.
岐伯曰.悉乎哉問也.與道合同.惟眞人也.
帝曰善.
帝曰く、遅速と往復とは、風の生ずる故由にして、しかして化し、しかして変ずるは、故より盛衰に因るの変のみ。
成敗倚伏して中に遊ぶとは、何ぞや。
岐伯曰く、成敗は倚伏して、動より生じ、動きて已まざれば、すなわち変作こる。
帝曰く、生化せざるか。岐伯曰く、出入廃されれば、すなわち神機は化して滅し、升降息めば、すなわち気立は孤にして危うし。
ゆえに出入するにあらざれば、すなわちもって生・長・壮・老・已するなく、升降するにあらざれば、すなわちもって生・長・化・収・蔵するなし。
ここをもって升降・出入は、器としてあらざるなし。ゆえに器なる者は生化の宇にして器散ずればすなわちこれを分かち、生化息まん。
ゆえに出入せざるなく、升降せざるなし。
化に小大あり、期に近遠あり。四者これあれば、常の守らるるを貴び、常に反すれば、すなわち災害至る。ゆえに曰く、形なければ患いなし、と。
此れをこれ謂(『現代語訳 黄帝内経素問 下』P91より抜粋 訳:松村巧)
『生・長・壮・老・已』
『生・長・化・収・蔵』
韻を踏んだ二つの言葉。
この章においては『化する』という”ターニングポイント”としての動詞が重要に思います。
生長【陽】から収蔵(老已)【陰】への変換に着目してみた訳を考えてみました。
『生長・壮・老已』
『生長・化・収蔵』
『生長・壮・老已』
生長して→壮じて(大人になって)→老已(年老い亡くなる)する
『生長・化・収蔵』
生長して→化して(変化して)→収蔵する
【参考文献】
『黄帝内經』中医古籍出版社
『現代語訳 黄帝内経素問 下』東洋学術出版社
傅と傳
霊蘭秘典篇 第八
黄帝問曰・・
心者、君主之官也。神明出焉。
肺者、相傅之官、治節出焉。
肝者、将軍之官、謀慮出焉。
胆者、中正之官。決断出焉。
膻中者臣使之官。喜樂出焉。
脾胃者倉廩之官。五味出焉。
大腸者傳道之官。變化出焉。
小腸者受盛之官。化物出焉。
腎者、作強之官、伎巧出焉。
三焦者、決瀆之官、水道出焉。
膀胱者、州都之官、津液蔵焉、気化則能出矣。
凡此十二官者、不得相失也。・・
十二の臓腑を政府の官職に例えて働きを説明している章ですが、似ている字があり確認の為に書き留める事といたします。
肺 :相傅之官(そうふのかん)
大腸 :傳道之官(でんどうのかん)
傅(ふ、ぶ)
1⃣もり、かしづき、もり役(左右に奉侍して養育する職)
2⃣ひかえ、かはり
・
・
【傅育(ふいく)】まもり育てる、保育
【傅相(ふそう)】もりやく、つきそい
傳(てん、でん)”伝”の旧字体
1⃣つたへる、つたわる
2⃣のべる
3⃣おくる
・
・
【傳意(でんい)】わが心を他へつたえる
【傳記(でんき)】人間の一代の事がらを記した記録
『霊蘭秘典篇 第八』の官位への例えですが、”心”を中心として役職を配置していますが、それが解剖学的とも思え、例えば”脾胃”を中心として他の臓器の配置してみたらどうなるのかと・・
【参考文献】
『大漢和辞典』大修館書店
『現代語訳 黄帝内経素問』東洋学術出版社
東洋医学探訪(02)
鍼灸学生の授業の一環で解剖実習があります。
東洋医学を学ぶ者として
『太古の医家達も、間違いなく解剖実習で学んでいるだろうな』
と考えておりました。
京都で医学史の1ページに触れてまいりました。
山脇東洋觀臓之地
ーーーーーーーー碑文ーーーーーーーーー
近代医学のあけぼの 観臓の記念に
1754年 宝暦4年閏2月7日に
山脇東洋(名は尚徳 1705~1762)は所司代の官許をえて
この地で日本最初の人体解屍観臓をおこなった。
江戸の杉田玄白らの観臓に先立つこと17年前であった。
この記録は5年後に『藏志』としてまとめられた。
これが実証的な化学精神を医学にとり入れた成果のはじめで
日本の近代医学がこれから
めばえるきっかけとなった東洋の この一業をたたえるとともに
観臓された屈嘉の霊をなぐさめるため
ここに碑をたてて記念とする。
1976年3月7日
日本医師会
日本医史学会
日本解剖学会
京都府医師会
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
六角獄舎跡は二条城の南の因幡町にあります。
跡地は集合住宅であり、石碑のみの設置でした。
【用語集】肝血虚
肝血虚
肝の機能の一つとして、
血を貯蔵し、血流量を調整する「蔵血作用」がある。
具体的な例として
日中など身体を動かす際には、
全身に(気)血がめぐり滋養される。
一方、安静時や就眠時は一部の血は肝に帰り蔵される。
肝が血の滋養を得られないと
肝血虚となるが、
その原因として、
出血過多や病気を長く患うことにより
気血が消耗することがあげられる。
また、血自体が生成されにくい状況も原因となりうる。
『黄帝内経霊枢』 決気篇には、
“焦受気取汁、変化而赤、是謂血。”
→中焦で気を受け汁を取り、変化して赤し。これを血という。
とあり、中焦の脾胃が水穀の精微を血へ変化させるが、
脾胃の働きが悪くなると血の生成にも影響が現れる。
腎との関わりでいえば、
肝血は腎精から化し、腎精は肝血によって補うというように、
相互に助け合っているが、それらのバランスが崩れると肝血の不足となる。
肝血虚が進行すると
「心」や「腎」に影響が及ぶ。
心は血を主るといわれ、
心が血虚となると、
「心悸」(しんき:動悸がして不安を伴う状態)
「怔忡」(せいちゅう:心臓が激しく動悸する症状)
などがあらわれる。
肝腎は同源であり、
精と血も互いに転化する関係性にあるが、
肝血の不足が長期化すると、
生殖機能の低下や小児の発達遅滞など腎精不足の症状があらわれる。
参考文献:
『黄帝内経素問』
『黄帝内経霊枢』
『中医基本用語辞典』 東洋学術出版社
『基礎中医学』 神戸中医学研究会
『中国医学辞典』 たにぐち書店
『臓腑経絡学』 アルテミシア
『鍼灸医学事典』 医道の日本社
祖母の脈を診る。
祖母。94歳。要介護4。今年2月に脳梗塞。
30年前ぐらいに大腸癌→人工肛門。
発声はあれど会話は覚束ない。
食欲旺盛。
六部定位脈診……の真似事をしてみる。
……
肝心脾肺腎のうち、腎が沈なのは予想通りだったか、脾がやたら強いのには腰を抜かした。
次いで、肺も強い。
肝心はかなり弱かった。
うーん、もっと色んな人の脈を診ないと比較ができん。
中国の思想(01)
老子
一章 真理は固定したものではない
道可道、非常道。
名可名、非常名。
無名天地之始、有名万物之母。
故常無欲以観其妙、常有欲以観其徼。
此両者同出而異名。
同謂之玄。
玄之又玄、衆妙之門。
道を可とする道は、常なる道に非ず。
名を可とする名は、常なる名に非ず。
無は天地の始まりの名、有は万物の母の名。
故に常なる無は其の妙を観さんと欲し、常なる有はその徼を観さんと欲す。
この両者は同じ出にして名を異とする。
同じく、これを玄と謂う。
玄のまた玄を、衆妙の門とす。
【参考文献】
『中国の思想[Ⅵ]老子・列子』徳間書店
五行大義(04)
稼穡
土爰稼穡。稼穡者、種曰稼、歛曰穡。
土爲地道、萬物貫穿而生。故曰稼穡。
土居中、以主四季、成四時。
中央爲内事。宮室夫婦親屬之象。
古者天子至於士人、宮室寝處、皆有高卑節度。
與其過也寧儉。禹卑宮室孔子善之。
后夫人左右妾媵有差、九族有序、骨肉有恩、
爲百姓之所軌則、則如牝。
順中和之氣、則土得其性。
得其性、則百穀實、而稼穡成。
如人君縦意、廣宮室臺榭、鏤雕五色、罷盡人力、
親踈無別、妻妾過度、則土失其性。
土失其性則氣亂、稼穡不成、故五穀不登、風霧爲害。
故曰土不稼穡。
土は稼穡。稼穡とは、種を稼といい、歛を穡という。
土は地道。万物は貫穿して生ず。故に稼穡という。
土は中にあり、四季を主り、四時を成す。
中央を内事となす。宮室、夫婦、親属の象なり。
古なる者、天子から士人に至るまで、宮室、寝処、皆が高卑の節度を有する。
その過を興するよりは、むしろ倹なり。禹は宮室を卑し、孔子はこれを善とす。
后、夫人、左右の妾媵に差を有し、九族に序を有し、骨肉に恩を有し、
百姓の軌則のところとなす、すなわち牝のごとし。
中和の氣に順じ、すなわち土はその性を得。
その性を得れば、すなわち百穀を実して、稼穡をなす。
もし人君の意をほしいままにし、宮室、台榭をひろめ、五色の鏤雕、人力を罷つくし、
親踈に別を無くし、妻妾の度を過ぐれば、すなわち土はその性を失う。
土はその性を失えば氣が乱れ、稼穡ならず、ゆえに五穀を登せず、風霧の害をなす。
ゆえに曰く、土は稼穡せず。
【参考文献】
『五行大義』明德出版社
『漢語林』大修館書店
『新版 東洋医学概論』医道の日本社
五行大義(05)
【更】
01:かえる、あらためる
02:かわる、あらたまる
03:こもごも、かわるがわる
04:さきもり、交代して役に服する義
05:夜閒の時限の稱呼(称呼:よび名)
06:つぐ、つづく
07:つぐなう
08:経る
09:ふける、すぎる
10:よい
11:としより
12:姓
從革
金曰從革。從革者、革更也。從範而更。
形革成器也。西方物旣成、殺氣之盛。
故秋氣起、而鷹隼撃、春氣動、而鷹隼化。此殺生之二端。
是以白露爲露。露者殺伐之表。
王者敎兵、兵集戎事、以誅不義、禁暴亂、以安百姓。
古之人君、安不忘危、以戒不虞。
故曰、天下雖安、忘戰者危、國邑雖强、好戰必亡。
殺伐必應義。應義則金氣順。
金氣順、則如其性。如其性者、工治鑄作、革形成器。
如人君樂侵凌、好攻戰、貧色賂、輕百姓之命、
人民騒動、則金失其性、治鑄不化、凝滯渠堅、不成者衆。
秋時萬物皆熟、百穀已熟。
若逆金氣、則萬物不成。故曰金不從革。
金は従革という。従革なるもの、革は更なり。範にしたがい更となす。
形あらたまりて器を成すなり。西方の物、既になりて殺氣盛んなり。
故に秋氣が起こりて鷹隼を撃ち、春氣動きて鷹隼を化す。これ殺生の二端なり。
これをもって白露は露となす。露なるもの殺伐の表なり。
王なるもの兵に教え、兵を戎事の為にで集め、以って不義をうち、暴乱を禁じ、もって百姓を安ず。
古の人君、安ずれど危うきを忘れず、もって不具をいましめる。
故にいわく、天下が安といえども、戦いを忘れたものは危うき、国邑が強といえども、戦いを好めば必ず亡ぶ。
殺伐は必ず義に応ず。義は則ち金氣の順に応ず。
金氣の順、その性のごとく。その性の如くは、工治・鋳作し、形をあらため器をなす。
もし人君が侵凌を楽しみ、攻戦を好み、色賂をむさぼり、百姓の命を軽んじ、
人民の騒動、則ち金がその性を失い、治鋳は化せずに、凝滞し渠堅する、ならないもの衆し。
秋は万物みな熟し、百穀はすでに熟す。
若し金氣に逆らえば、則ち万物ならず。故に金は従革せずという。
【参考文献】
『五行大義』明德出版社
『大漢和辞典(第5巻、962頁)』大修館書店
傷寒論の学習 その1
こんにちは。
傷寒論をはじめて勉強していく場合、
学校の教科書や入門書では
・太陽病:表寒証
・陽明病:裏実熱証
・少陽病:半表半裏証
・太陰病:裏虚寒証(脾陽の虚)
・少陰病:裏虚寒証(心腎の虚)
・厥陰病:外感病の末期で陰陽の失調
と学習していくと思います。
これらは主となる証であり、
専門書では
この主となる証のことを
「提綱証(ていこうしょう)」と言ったりします。
たとえば太陽病の提綱証は表寒証であり、
その綱となる症候として、
脈は浮脈、症状は悪寒、頭痛(頭項強痛)とされます。
太陽病以下、
陽明病では便秘、潮熱、舌は黄色く乾燥するなど、
それぞれの綱となる症候があり、
これらは入門書にも書かれていて
学校の教科書にもほとんど載っている内容ですので
国試にも出題されていますね。
さて、ここからが本題なのですが、
このような入門書や学校の教科書だけで
学習が終わってしまうと、
傷寒論のごく一部しか
知らないことになってしまうということです。
太陽病だからといって表寒証だけかというと
実はそうではなく、裏証もあります。
同様に、陽明病だからといって裏熱証だけかというと
そうではなく、
陽明病の裏寒証と分類する証候もあれば
裏虚証と分類する証候もあります。
具体的には、
太陽病の綱証は表証と述べましたが、
太陽病自体を表裏で分けて考えてみると、
太陽病には
①太陽経証
②太陽腑(実)証
があるとされています。
①太陽経証は上述した表寒証のことですが、
②太陽腑証とは
膀胱の機能が失調して小便が出ない太陽蓄水証、
瘀血が停滞する太陽蓄血証があり、
裏である膀胱腑の機能が失調するものをいいます。
表裏、虚実、寒熱、陰陽は
それぞれ相対的な概念で、
太陽病だからといって必ずしも表証であるということではなく、
表にある邪が内陥して膀胱の機能を失調させることは
可能性として
普通に考えられることです。
<続く>